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固形癌は、胎盤と類似した性質を多く持っています。例えば、増殖・浸潤・血管新生・免疫抑制等です。我々はこの中でも特に、免疫抑制に着目し、癌免疫と妊娠免疫を比較解析し、最終的には正常機能である妊娠に関連した分子による癌治療を開発する事を目的として研究を行っています。
下の図に示したように、胎盤の細胞も癌細胞も、幹細胞から分化しながら、新順応や免疫よく性能を獲得して行きます。胎盤では、母体脱落膜に浸潤する

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Extravillous trophoblast (EVT)と絨毛を形成するSynsytiotrophoblast (STB)の系統にそれぞれ分化して行きますが、固形癌では、両方の性質を持った細胞が分化してくるのではないかと考えられます。
そこで、この両者を比較する事により、癌細胞とトロフォブラストではどのような違いが有る為に、疾患と健康な状態が形成されるのかを明らかにしたいと考えています。また、その違いに応じて、免疫応答も変化する事が考えられます。担癌状態と妊娠状態は、両方とも免疫抑制が起こる状態であると考えられますが、前者は死に至る病であるのに対し、後者は一過性の健全な状態です。その違いは何かについて明らかにすれば、自ずとどうすればがんを治療する事が出来るかの答えも見えてくると考えられます。

しかし、免疫系も胎盤も、進化が大変急速であり、マウスでは、完全にヒトを模倣する事が出来ません。
そこで私たちは、これらのモデル動物として、重度免疫不全マウスにヒト細胞を移植して構築したヒト化マウスや、浸潤性胎盤を持つ非ヒト霊長類のコモンマーモセットを用いています。
重度免疫不全マウスとしては、最近、ヒトIL-4を全身に発現するNOG-hIL-4-Tgというマウス系統を確立し、これにヒト末梢血単核球(PBMC)を移植して、ワクチンを投与し、特異抗体産生を誘導する系を確立しました(Kametani et al. PLOS ONE 2017)。現在これを用いて癌患者免疫系の機能解析を行っています。将来的には、個別化医療に必要なin vivo評価系を確立する事を目指しています(Kametani et al. Person. Med. Univ. 2018, review)。
一方、コモンマーモセットについては、免疫系遺伝子のホモロジー解析や、モノクローナル抗体作製、造血幹細胞の同定等を行って来ており、現在は妊娠免疫の解析を行っています(Kametani et al. Exp. Anim. 2018, review)。コモンマーモセットは進化的にヒトと遠い霊長類であり、霊長類の進化に伴って獲得した形質の為に必要な最小限の遺伝因子を解析するのには大変優れたモデルと言えます。